アンナの涙が、アルバートの持っていた花に落ちた瞬間――


パァーッ!


突然、花がまばゆい光を放ちました。


「な、なんだ!?」


子どもたちは目を丸くし、驚きのあまり飛び上がります。


虹色の光が病室全体を包み込み、壁や床に幻想的な影を落としました。おもちゃや絵本、点滴スタンドまでもが輝き、まるで夢の中にいるようです。


その時――


窓の外に、ひっそりと人影が現れました。


長い杖を持ち、窓枠に腰掛けた老婆――魔女が、にやりと笑っています。


ガラッ!


突然、病室の窓が勢いよく開き、外から強い風が吹き込みました。カーテンが大きく揺れ、子どもたちの髪を乱します。


「どっこいしょっと。」


――魔女が、ほうきに乗って四階の窓の外に現れたのです。


「邪魔だ邪魔だ! そこをどきな!」


甲高い声を響かせながら、魔女は杖を振り回します。


「ほぉ……こりゃあ、面白いねぇ。」


虹色の光を放つ花を見つめ、しばらく沈黙する魔女。


やがて、ジロリと鋭い目を向け、アンナをまじまじと見つめました。


「お前が……アンナだね?」


「はい、おばさま。あなたのことは、アルバートたちから聞いております。」


アンナは魔女の鋭い視線に怯むことなく、真っ直ぐに見つめ返しました。


「ふん、生意気な娘だね。」


魔女は鼻を鳴らし、杖を軽く地面に突きます。


「アンナ、お前の望みを言いなさい。」


その言葉を聞いて、アンナはこらえていた涙が堰を切ったように溢れ出します。


「魔女様……どうか、アルバートに光を戻してください!」


アンナは必死に訴えます。


「私は、ほんの一瞬でも世界を見ることができて、本当に幸せでした……でも、アルバートが光を失ったままでは、私は幸せになれません!」


アンナは涙を拭いながら、懇願するように魔女を見上げました。


グスン……グスン……


彼女のすすり泣きが、静かな病室に響き渡ります。


「……あー、わかったわかった。」


魔女は面倒くさそうに手をひらひらさせました。


「まったく、わたしゃ女の涙ってのが大の苦手でねぇ。」


「さぁ、その花を渡しなさい。もともと、それは私のものなんだよ。」


アルバートは、静かに持っていた花を魔女へと手渡しました。