神界を、一筋の光が切り裂いていた。
マチルダが放つ黄金のオーラは、推進力となって三人の身体を包み込み、文字通り光のような超スピードで天の門へと突き進む。周囲の神々しい絶景は、もはや景色として認識できず、ただの色と光の線となって後方へと猛烈な勢いで流れていった。
「あばば…まっ、マチルダ様…!おっ、落ちる…」
その凄まじい風圧に、マチルダのマントにしがみつくアーサーの顔が、とんでもないことになっていた。頬はぶるぶると激しく波打ち、唇は無残にめくれ上がり、目は無理やり開かれたまま涙を流し続けている。
アーサーが涙目でマチルダを盗み見ると、絶望が彼を襲った。普段は澄ましているマチルダも、可愛い相棒のチャチャも、二人して自分と全く同じ、とんでもない顔になっていたのだ。
そんな状況の中、アーサーは風圧で歪む視界の先に、閉ざされたままの巨大な『天の門』が急速に迫ってくるのを捉えた。このままでは激突は必至だ。アーサーは必死で叫んだ。
「まっ、マチルダ様!まっ前!前!」
しかし、マチルダは速度を一切緩めない。とんでもない顔のまま、風圧でむにゃむにゃになった口調で叫び返した。
「ゆーちょーにまってるひまにゃにゃい!ひっかりつかまってるぉ!」
「「ま゛っマ゛チ〞ルダ様ぁぁぁーーっ!!」」
アーサーとチャチャの悲鳴が響いたと同時に、マチルダの小さな身体が、天を覆い尽くすかのような神々しい門に到達する。
ゴッ!という衝撃音すら生ぬるい。
ドドドドドドンッ!!
凄まじい轟音と共に、神々が作り上げた、絶対に破壊不可能なはずの天の門が、まるで紙切れのように木っ端微塵に吹き飛んだ。
マチルダ一行は、砕け散った門の破片がキラキラと舞う中を、涼しい顔で通り抜けていく。
衝撃が収まり、アーサーは震えながら呟いた。
「もうやだこの人…超サ〇ヤ人じゃないんだから…」
「何か言ったか?」
アーサーは慌てて首を横に振った。
「滅相もございません!」
マチルダは「ふん」と鼻を鳴らすと、こう告げる。
「喋るな、舌を噛むぞ」
アーサーは心の中で憤慨する。(自分から話しかけてきたくせに…!)
そんなやり取りを乗せて、一行は一筋の光となり、地上のエアデール王国めがけて降下していった。
***
その頃、星辰会議の議場を、空間そのものが軋むような、凄まじい衝撃が襲った。
オルドレイクが何かに気づき、「まさか…」と呟く。
そこへ神官たちが転がるように駆け込んできて、叫んだ。
「ご報告!てっ、天の門が…!天の門が破られました!」
議場が、今度こそ本当の驚愕とパニックに包まれる。その中で、鍛冶神ボルガンだけが、腹を抱えて豪快に笑い出した。
「はっはっは!やりおったわい!」
ボルガンは「さて、わしらはわしらの仕事をするかの」と言い、ゆっくりと立ち上がる。
オルドレイクが「どこへ行く、ボルガン!」と問うと、ボルガンは肩をすくめて答えた。
「決まっておる。壊れた門を直しにじゃよ」
そう言って、彼は議場を去っていく。
残された神々は、「天の門が破られるなど、神代が始まって以来、一度もないぞ…」と、ただ呆然としている。
その前代未聞の事態を、運命を司るアストラーデと、時を司るセレフィナは、ただ無言で見つめていた。