子どもたちは急いでアンナの元へ向かいました。
病院に着くと、廊下には人だかりができていて、ざわめきが広がっています。
「先生! 女の子の目が……!」
「なんと! そんな馬鹿な……!」
看護師や医師たちが驚きの声を上げました。
アンナが静かにまぶたを開くと…
――目の前が、光で満たされていきます。
ぼんやりとしていた視界が、次第に鮮明になり、白い壁、明るい窓、心配そうに彼女を見つめる医師や看護師たちの姿が浮かび上がってきました。
「……見える。どうして……? 私の目が……治ってる!」
アンナの目から、喜びの涙が溢れました。
そこへ、子どもたちが駆けつけました。
ヨハンはアンナに近寄り、穏やかに微笑みます。
「はじめまして。僕がヨハンです。こっちがドルジ、そしてこちらがアルバート。はじめまして、かな?」
アンナは嬉しそうにみんなの顔を見渡し、はしゃぎました。
「ああ! まさか、あなたたちの顔が見られる日が来るなんて! ふふっ、想像していた通り、みんな優しそうな顔ね。」
しかし、ふと彼女は顔を曇らせました。
「ところで、アルバート……どうしたの? あなたの顔をもっとよく見せて。」
そう言いながら近づこうとすると、アルバートは一歩後ずさりました。
その表情には、深い悲しみが浮かんでいます。
「……アルバート?」
アンナは不安を覚えました。
すると、ヨハンが静かに口を開きます。
「実はね、アンナ。君が目覚める前に、アルバートが魔女に頼んで君の目を見えるようにしてもらったんだ。……その代償として、アルバートは自分の視力を失ってしまったんだよ。」
ヨハンの言葉が終わった瞬間、アンナの表情が一変しました。
怒りと悲しみが入り混じり、彼女は震える声で叫びました。
「……馬鹿! アルバート!!」
アンナは彼に駆け寄り、力いっぱい胸を叩きながら泣き叫びます。
「どうしてそんなことをしたの!? 私がそんなことをしてほしいだなんて、いつ言ったの!? 今すぐ魔女のところへ戻って、あなたの光を取り戻してきて!」
嗚咽混じりの言葉が途切れながらも、彼女は続けます。
「私は……あなたの笑顔が見たいのに……! こんなの、あんまりよ……!」
アンナはアルバートの顔にそっと手を伸ばし、視線を合わせようとしました。
しかし、アルバートの目は虚ろで、彼女の姿を見ることはありません。
「……ダメだよ、アンナ。」
アルバートは静かに言います。
「この花の効果は、一度きりなんだ。それに、これは僕が勝手にやったこと。君には関係のない話さ。」
その瞬間――
バチンッ!
鋭い音が病室に響き渡りました。
アンナは、涙を流しながら、アルバートの頬を思い切り叩きました。
「……よくも、そんなことを……!」
彼女は泣き崩れました。
「私に光が戻っても……あなたが失ってしまったら、意味がないじゃない……! この街も、海も、森も、湖も……あなたと一緒じゃなきゃ意味がないのに……!!」
堰を切ったように、アンナは声を上げて泣き続けました。
アルバートは呆然と立ち尽くし、ヨハンとドルジは顔を引きつらせています。
泣きじゃくるアンナの声が、病室に響き渡りました。
アーンアンアン!アンナは泣くのをやめません。