重厚な扉を開けてリビングに通されると、暖炉の火が燃える暖かな部屋の中央に、大きなテーブルが置かれていました。その上には、湯気を立てる美味しそうな料理が所狭しと並べられています。
子どもたちは目を輝かせました。焼きたてのパンからは香ばしい小麦の香りが漂い、濃厚なコーンポタージュはとろりと滑らかで、一口飲めば体の芯まで温まりそうです。色とりどりの野菜がたっぷり入ったサラダは新鮮でシャキシャキとしていて、見るからに食欲をそそります。
「ヒッヒッヒ……歩き疲れただろう。さぁ、お食べ。」
魔女がそう言うと、子どもたちは思わずごくりと喉を鳴らしました。確かに、森を歩き続けたせいで空腹は限界に達しています。しかし、目の前にいるのは伝説の魔女なのです。
アルバートとドルジはヨハンを見つめました。ヨハンは『絶対に、食べるな。』という鋭い視線を二人に向けます。ところが、とうとう誘惑に負けたドルジが、勢いよく料理にかぶりつきました。
「美味しい!なんだこれ!はじめて食べる味だよ!」
満面の笑みを浮かべ、アルバートとヨハンにも食べるように勧めます。それを見てアルバートも「僕も!」と言いながら料理にかぶりつきました。
ヨハンは二人を止めようとしましたが、結局、自分も食べてしまいます。魔女の料理はどれも絶品で、子どもたちは夢中になって食べ続けました。
すると突然――
「カァー!カァー!」
甲高い鳴き声が響き渡り、バタバタバタ! と羽音が聞こえました。
驚いて見上げると、天井から巨大なカラスが舞い降りました。鋭い爪を光らせ、妖しい瞳で子どもたちを睨みつけます。
「帰れ!ここはお前たちのような子どもが来る場所ではない!」
なんと、カラスが人間の言葉を話していました。
「なんだこの目つきの悪いカラスは!」
アルバートは驚きながらも、負けじと反論します。
カラスはプイと顔を背け、「ふん!下賤な人間どもめ!このアーサー様を誰だと思っているのだ!」と高らかに宣言しました。
「俺様は、マチルダ・フォン・エーベルバッハ=ツー=ウント=ツー=バイヒラーディング様のお側仕え、アーサー様だぞ!」
ドルジはカラスの大きさと鋭い眼光に怯え、「うわあああ!」と叫んでアルバートの後ろに隠れます。
ヨハンは眼鏡をくいっと上げ、興味津々にカラスを観察していました。
「ながくてよくわからん!目つきが悪い上に口の聞き方もなっちゃいない!なんだこいつ!」
アルバートは呆れたように言い放ちます。
すると、ヨハンが冷静にこう指摘しました。
「おい、アルバート。カラスが喋ってることにまず突っ込んだらどうだ?」
魔女は不気味な笑みを浮かべながら言いました。
「アーサー、およし。子どもたちはここまで来るのにだいぶ疲れているんだよ。さぁ、お前もテーブルにつきなさい。一緒にご飯を食べよう。」
魔女の口調は見た目とは裏腹に優しく、アーサーをテーブルへと誘いました。
カラスは鋭い爪でテーブルをガリガリと引っ掻きながら、子どもたちを睨みつけます。しかし、子どもたちは空腹のあまり料理に夢中でした。
ムシャムシャムシャ、ムシャムシャムシャ。
「美味しい!こんな美味しいご飯ははじめてだ!」
魔女の料理は、それほどまでに美味しかったのです。そんな子どもたちの様子を見ながら、アーサーは不機嫌そうにくちばしを鳴らしていました。